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浜浦 健 組合立紀南病院 検査科病理
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ITで、遠く離れた師に縋(すが)る・・・・
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私は三重県の南端、紀伊半島の熊野地方にある病院に勤務しています。過疎地で交通の便もよくない所ですが気候は温暖で、後ろには紀伊山地の山々がそびえ、前には黒潮巡る太平洋が一面に広がる自然豊かな地でもあります。
院内で細胞診を開始して3年余りですが、周囲には相談できる細胞検査士、細胞診指導医がいない為、文明の利器に助けを借りている”若葉マーク”の細胞検査士です。
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周囲に相談相手のいない私の様な「一人細胞検査士」の場合、細胞所見や判定についてセカンドオピニオンを得たいと思うことがしばしばあります。私の場合は、細胞診指導医、細胞検査士の両者が常勤する、最も近い施設は直線距離で100km離れています。このあたりは海岸線が入り組んでいて、当該施設までは車で片道3−4時間もかかるので、容易に出かけることはできません。また、標本を郵送するのは確実な方法ではありますが、日数がかかることや、相手先から標本を返送してもらう手間などを考えると、なかなか頻繁に利用できるものではありません。そこで、家庭にも急速に普及しつつあるインターネットのE-mailとデジタルカメラを利用して細胞診の画像をやりとりする、簡易的なテレサイトロジーを行い、細胞診業務の一助として役立てています。我々が実際に行なっている方法の概要を紹介させていただきます。
【送信側施設】
送信したい細胞像を顕微鏡からデジタル画像として取り込みます。デジタル画像の取り込みは、顕微鏡専用CCDカメラでなくても、市販のデジタルカメラでも顕微鏡の接眼レンズに直接密着させて撮影できる機種があります。ちなみに当施設ではNikon coolpix990を使用しています。
デジタルカメラでの顕微鏡撮影は、画質モード:normal(jpeg・約1/8圧縮)、記録サイズ:vga(640_480ピクセル)、画像容量:平均100kb以下、フォーカスモード: 遠景(ストロボ発光禁止)、露出モード:オート(絞り優先・f値は最小にセット)、ホワイトバランス:オートの条件で撮影しています。
撮影枚数は、基本的には病変を最もよく反映している部分を1症例あたり2箇所選択し、それぞれ弱拡大・強拡大の合計4枚の画像を送信します。ただし、子宮内膜標本などにみられる重積性の強い細胞集塊では、同一部位でフォーカスのみをずらした画像を複数枚添付する必要があり、その場合枚数は多くなります。
画像はjpegフォーマットにより既に圧縮されているため、メールソフト側で改めて圧縮をする必要はありません(jpegに再度圧縮をかけると、かえって容量が増えてしまう場合があります。)
e-mailには患者のプライバシーの漏洩を防ぐ為、本人を特定できる内容(氏名、カルテ番号など)は記載せず、臨床診断や検査データなど必要な情報のみとし、画像はjpegフォーマットの添付ファイルとして送信します。
【受信側施設】
インターネットに接続されたパソコンで送信側施設から届いたe-mailを受信後、添付された画像を元にモニター上で所見を読み、e-mailまたは電話でやりとりをします。時間が許せば、電話の方が所見の詳細や情報を相互に確認しながら行なえるので、より確実です。
【テレサイトロジーの実際】
実際にテレサイトロジーの診断により、手術や生検に至った症例を紹介します。
症例1 甲状腺穿刺・乳頭癌
(写真1:Pap染色、弱拡大)濾胞上皮の立体的な乳頭状重積集塊を見ます。
(写真2:Pap染色、強拡大)核内細胞質封入体や核溝が分かります。
(写真3:HE染色、弱拡大)被膜に囲われた乳頭状腫瘍細胞が見られます。
(写真4:HE染色、強拡大)微細クロマチンの増量と極性の乱れを伴い、明るい核が分かります。
症例2 リンパ節穿刺・ホジキンリンパ腫
(写真5:ギムザ染色、弱拡大)鏡面像を示すR-S巨細胞を見ます。
(写真6:ギムザ染色、強拡大)粗網状クロマチンや腫大した核小体が明瞭です。
(写真7:HE染色、弱拡大)組織にも同様の細胞が見られます。
(写真8:HE染色、強拡大)
現在までに、このようにして診断を行った症例はこれまでに約70例となっています。
(これらの画像は一般用のデジタルカメラ Nikon coolpix990で撮影したものです)受信側は、送信側から送られた代表的な数枚の画像のみで判断しなくてはならないので、送信側の画像選択の良否(撮影部位、画質etc.)はよって判定・診断にずれが生じる可能性があります。したがって、送信側の細胞検査士の的確な細胞画像の選び方、撮影技術が極めて重要となります。
研修時に得た人脈により、経験豊富な先輩細胞検査士および指導医の方々が、遠くからこのような形で「”若葉マーク”の細胞検査士」である私をサポートしてくれています。「聞かぬは一生の恥」と思い、疑問に感じた箇所はメールで送信、セカンドオピニオンやアドバイスを受けながら少しずつ自分のレベルアップが出来ればと、日々業務に努めています。
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