伊東山 勤 長崎記念病院 臨床検査部

 

 
不明の毒性植物

 中規模の民間病院で検査技師をやっております。現在は病理関連の業務を中心に他の業務を掛け持ちしながら日常業務にあたっています。最近は子供たちが小学生になったのを機会に、私自身も小学生になったつもりでいろいろな遊びや学習を子供たちと共有していこうと思うようになりました。できれば世の中の森羅万象について、勉強のやり直しをやってみたいと思っています。そのための有力な手段の一つにインターネットがあるということも発見しました。
 ささやかではありますが、わが家のホームページも作ってみました。よろしかったらお立ち寄りください。

 http://www.mars.dti.ne.jp/~itoyama/

 

 インターネットのおかげで、ある植物の種類を調べることができ、ネットの有用性を実感することができましたのでご紹介します。

 その植物をはじめて見たのは平成8年でした。食用の芋と誤って口にした方が、舌や口腔内の激しい痛みや腫れを訴え、私が勤務する病院に入院されました。山中でたまたま作業中にみつけたそうで、主治医から根のようなものを見せられ、どのような植物か特定できないかと相談されました。

 じつは私と同僚は状況をよく把握しないままに、ちょっとした好奇心からこの根のようなものを少しだけ味見をしてしまいました。すると瞬く間に舌先に痛みを感じ、その後一週間は舌先のしびれ感がとれませんでした。私と同僚が経験した痛みは尋常ではなかったため、周囲に危険性を知らせる必要があると思い、植物の種類を特定することにしました。

 当時さまざまな心当たりをあたってみたのですが、身近なところではまったく手がかりは得られませんでした。ちょうどそのときインターネットでは臨床検査関連の会議室ができており、会員もふえ続けていました。そこでこの事例について発言したところ、広島大学法医学教室の方から中毒情報ネットワークの紹介とともに、そちらでもこの植物について検討してくださることになり、両ネットワーク間で発言のやりとりができました。(発言者およびネットの管理者に事前に了承を頂き、発言を転載するという形をとりました)

 植物の同定をする場合は、葉の形や茎とのつながり方などを見るのが重要なポイントなのだそうです。しかし、なにぶん手元には根らしきものしか参考にするものがなかったため、とにかく患者さんがみつけたという現場付近に行ってみて、手あたりしだいに雑木林を掘り返してみることにしました。休日や職場の帰りを利用しながら探していたところ、しばらくして偶然にも同じような根を見つけることに成功しました。ただ時期が10月であったためか、その植物の茎や葉は地上に出ておらず根の部分のみの採取になってしまいました。自宅の庭で発芽させようと試みたのですが、しばらくすると根は腐ってしまい、うまくいきませんでした。

 こうした経過をネット上の会議室で1ヵ月くらい展開しました。結局、根の部分(実際は地下茎)しか見つけることができなかったので、植物の同定は困難とのことでしたが、おそらくヤマイモ科に属する「オニドコロ」の類であろうという返事を中毒情報ネットワークのメンバーの方から頂くことができました。毒性については、根(地下茎)に含まれるシュウ酸にも原因があるのではないかということでした。当時、インターネットで「オニドコロ」を検索しましたが情報は得られず、一応それで終わりにしていました。

 その後もずっとこの植物については気になっていましたので、私の職場や周囲にこの事例を話し続けていました。すると今年の6月になって職場の看護婦さんが偶然山で見つけたといって、同じ種類の植物の根を持ってきてくれました。それにはちょうど芽が出ていたので、今度は腐葉土を使い再び自宅で栽培することにしました。そして1ヵ月くらいするとツルの長さは2メートルほどになり、立派な葉もたくさん出てくるようになりました。

 葉の写真を自分のホームページにも載せて、いつか同定できるチャンスを待っていました。同時に、久々に「オニドコロ」をネットで検索してみると今度はいくつかの情報を得ることができました。その中に、写真が掲載されてヤマイモ類についてくわしく書かれているページがありましたので、作者の方にメールを送り私のページの写真を見てもらいました。しかし、写真だけではくわしい様子がわかりにくいということで、ご丁寧に参考資料を郵送してくださいました。

 その資料をもとに観察したところ、カエデドコロ、キクバドコロ、ウチワドコロのいずれかであろうということがわかりました。完全に一つに絞り込むことができなかったのは、葉の表面の状態や形、葉の根本にある突起物の有無などいくつかの鑑別点を総合して完全に一致するものがなかったためです。雑種かもしれませんが、この辺についてはこれからさらに調べてみるつもりです。これらの植物は近辺の野山で比較的よく見ることができます。最近では私も葉の形を参考に、雑木林で見つけることができるようになりました。

 粘膜に刺激を与えるような毒性については、まだはっきりとした調べができていません。この植物の地下茎をつぶして顕微鏡でみると、針状の結晶が見られ、これが粘膜への物理的な刺激に関与していると思われますが、これがシュウ酸結晶かどうか確認はできていません。この針状結晶は多く見られる場合とそうでない場合がありますが、味見をして刺激に関与しているかどうかを確かめるというのは危険ですからやめています。

 今回経験した事例はヤマイモ科に属する植物で、ごく普通にみられる植物による被害でした。ヤマイモとは異なる「食えないイモ」があるということを一部には知っている方もおられるようですが、ただ単に「食えない」ということで、中毒という言葉は聞いたことがありませんでした。今回と同様な事例は現在にいたっても他に聞いたことがなく、また中毒をひきおこした原因物質についても確定できていないというのが現状です。このように、まだまだ不明な点が残されているのですが、今までに少しづつでも内容がわかってきたのは全てインターネットのおかげです。

 インターネットの世界には様々な人々がかかわっています。私は今までにいくつかのホームページの作者にメールを送り、いろいろな情報を教えて頂くことができました。またその逆もありました。「自分が発信できる情報は出す」ということが、インターネットを支えている大きな柱の一つだと思います。

今後も、こうした双方向通信の世界にかかわって行くことを楽しみにしています。

写真をクリックすると大きくなります


 

このコラムへの御意見御感想は・・・