僻地で細胞診検査を行っていくのは、ある部分では大変かもしれない。特に、指導医のいない施設の場合は尚更である。自分もそんな状況で細胞診検査をしている一人であるが、ちょっと特別かもしれない。
僻地の中でも特異な場所、日本最北端の地、稚内市。夏は涼しく短い。今年は27度が数日あっただけ。それに比べ冬は厳しく長い。だが、以外と気温は下がらない。マイナス15度になることはほとんどない。
北海道の場合は道庁と言うが、いわゆる県庁所在地のような地域の中心都市とは約330Km離れており、また10万人を越える都市は250km、更に一番近い市でも200Kmくらい離れている。
そんなところで細胞診検査を始めたわけだが、始めるに際し講習会に参加するなどして細胞診の基礎をある程度学んではいたが、実際の日常検査では解らないことが多くあった。しかし、近くに細胞診を行っている施設もないし、教えてくれる人もいないし、かなりの不安を抱きながら検査していた。
それから幸運にも半年後に札幌にいる病理医と巡り会い、プレパラートを郵送して教えてもらえることになり、なんとか日常検査をこなせるようにはなったが、いろいろ不安は尽きなかった。頻繁に札幌へ勉強しに行きたかったが、JRで片道6時間かかり一泊二日の旅になるため、仕事をそうは休めず札幌行きは2・3ヶ月に一度だけだった。
それから細胞検査士の資格を取るために試験を受けることになるが、そののために短期間の間に東京へ2度も行くことは、いろいろ費用の面も含め大変だった。その時のエピソードとしては、運が悪かったのかもしれないが、千歳空港へ行く途中に大雪で電車が止まり、一緒に行った後輩と他の乗客の一人と慌ててタクシーに飛び乗ったことがあった。
その後、何とか細胞検査士の資格を取り、学会などに参加する事になるが、全国学会や地方学会、また研修会へ参加するにも何かと費用がかかった。それに、相変わらず日常検査ではプレパラートを郵送していたため、結果報告に時間がかかり、緊急にも十分に対応しきれないし、同じ細胞を同時に見ながら討論できないなど、多くの不満を持ちながら業務していた。
そんなときはいつも思っていた。
都会の細胞検査士は、指導医にいつでも教えてもらえるし、学会にも簡単に参加できるしうらやましい、 と。
それが4年くらい前に遠隔細胞診(telecytology)を導入する事になり、状況が変化してきた。
初めはデジタルカメラやパソコンなどのいろいろと操作が増え大変だったが慣れてしまえば苦にならなくなった。何より今までの不満がほとんど解消されたし、多くの細胞検査士の方とも意見交換ができるなど、快適であった。
it技術の発達は、何ともすばらしいことであり大歓迎である。そして近い将来は学会などもインターネット上で行われるようになるかもしれない。そうなると、情報はいつでも入手できる様になるし、手軽に参加もできるし、しかも費用がかからなくなるなど、良いことずくめになるのかもしれない。
だが、ちょっと待てよ、と考えることがある。
それでは、この僻地から出かける機会が減ってしまうではないか。
いろいろな人と、直に顔を合わせた交流が出来なくなるのではないか。
いろいろな地域の文化に接する機会が減るのではないか。
it技術の発達は、仕事的にはいろいろと快適にさせてくれた。しかし、人間的には、ふれ合いのない寂しい思いをさせてくれるものなのかもしれない。
こんな余計な心配もしなければならないなんて、僻地で細胞診検査を行うことは、たとえit技術が発達しても、ある部分では大変かもしれない。
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