43回日本臨床細胞学会総会・学術集会の報告

 

                  日本臨床細胞学会大阪府支部細胞検査士会

                             森川 政夫

 世界中がワールドカップ(W杯)に心をときめかせているとき、第43回日本臨床細胞学会総会・学術集会は、平成14年5月30日(木)〜6月1日(土)の3日間、大阪国際会議場で各種役員会、総会・学術集会が開催され、盛会裡のうちに終了しました。
 学会開催中の参加者数は、約3,500人でありました。各種役員会では、ホットな話題が提供され、総会・学術集会は、初日より特別講演、招請講演(同時通訳)、要望講演、教育講演と各分野の先生方による熱気あふれる講演が行われました。
 学会長の大阪医科大学産婦人科学教室植木 實教授による精力的かつ緻密な企画の基、ご参加をいただきました皆様には印象深く思い出の多い大阪学会になりましたこととお察しいたします。近畿地区の細胞検査士を代表しましてお礼を申し上げます。

 学会のテーマとして「臨床細胞学と分子細胞生物学との邂逅」を掲げられ、形態学のみならず腫瘍学の最先端の話題にも触れることができました。その一環として、シンポジウム「分子生物学と細胞診断学の接点」が行われました。婦人科癌の発育・進展における遺伝子変化や形質発現について、血管新生因子(大阪医大 寺井義人)、CGHやmicroarrayによる遺伝子解析(杏雲堂病院 坂本 優)、HPV(関西医大 斉藤淳子)、テロメア(自衛隊福岡病院 石井賢治)に焦点を絞った講演がなされました。また、肺癌のbiomarker(コロラド大 杉田道夫)や悪性リンパ腫の分子診断(日本医大多摩永山病院 細根 勝)について、最新の話題が提供されました。癌の診断や治療には、勿論病理形態学がその基盤をなしているが、複雑な病態をよりよく理解するためには、分子生物学的アプローチが必須になると思われました。本シンポジウムでは、病理細胞診断に分子生物学的手法がどのように役立つかが多角的に論じられ、非常に有意義でありました。

 一般演題は348題、今回、新しい試みとしてタスクホース、国際フォーラムなどが準備されました。この国際フォーラムは、「アジア諸国における細胞診の現況と将来像」と題し、アジア地域における各国の細胞診の歴史をふまえ紹介をするというものでありました。まず、Dr.
liu (p.r. china)からは、子宮癌への取り組みを中心とした中国の細胞診の歴史を振り返りながらの発表。dr. chang (taiwan)は、台湾における細胞学会の成り立ち、特に、iacとの関りでiac
(ct)試験の実施や穿刺吸引細胞診の発展の様子について。assoc. prof. kanjanavirojkul (thailand)は、タイの各所で繰り広げられている技師教育についての試みを紹介。日・タイ細胞診ワークショップの役割についても言及されました。dr.
lee (korea)は、主に欧州などの援助で細胞診が立ち上がり、韓国では活発に行われていると述べられました。dr. yamagishi (japan)は、日本におけるct教育の変遷と将来に向けた展望を講演。また、最後にdr.
kobayashi (japan)は日本の細胞検査士会が作成したinternet cytology (web cytoconference)を利用した、アジア地域における細胞診教育への寄与について述べられました。討議では海外青年協力隊などに参加された細胞検査士から本フォーラム参加以外のアジア諸国への働きかけの必要性と、ボトムアップが我々の近々の課題との意見も述べられました。

 細胞検査士要望教育シンポジウムは、良性病変を中心とした穿刺吸引細胞診の現状について、座長は西 国広、石原明徳先生にお願いしました。1,標本作製の現状(川崎医大 三宅康之)は、全国の施設(495)にアンケート調査を行い詳細な現状報告。提出頻度別臓器、穿刺針の洗浄方法、さらに穿刺現場に出向いている施設は74.7%と報告。2,耳下腺領域(千葉大学 堀内文男)は、画像診断では良性と低悪性度群との鑑別が困難であり、これらを補う上で細胞診の臨床的役割は大きいと報告。3,甲状腺領域(野口病院 丸田淳子)は、当院での練習用教材による実習、採取率の通知などを述べ、材料採取から報告までの時間についても報告。4,肺領域(国立療養所三角病院 渡邊友宏)は、Bed
side screening(bss)と題し、肺病変の穿刺現場におけるスクリーニングの重要性について、その染色法も交えて報告。5,乳腺領域(大阪成人病センター 南雲サチ子)は、乳管内乳頭腫、線維腺腫、葉状腫瘍、授乳期乳腺などの細胞像を中心に鑑別点を報告。6,最後に質的診断が難しい軟部組織(癌研 古田則行)は、過去5年間における良悪判定上の正診率は98.7%と報告され、鑑別困難な良性疾患の細胞像を供覧されました。今回の細胞検査士要望教育シンポジウムは会長のご配慮で土曜日の午後に設定されたため、近隣府県からの参加が容易となり会場は立錐の余地もなく皆様には大変なご迷惑をおかけいたしました。

 次に今回の試みとしまして、学会開催中、何回でも学習できるビデオ・CD閲覧コーナーを設けました。美味しいコーヒーを飲みながらの医学用ビデオの観賞、さらに近畿連合会が誇る優秀な先生方また細胞検査士により作成された教育用CDの閲覧ができるように準備をしました。協力をいただきました近畿連合会の皆様には心よりお礼申し上げます。

 学会の定番となっておりますスライドセミナーですが、今回はいつになく大変な盛況でありました。上位回答者にはパソコンが当たることが影響したのでしょうか。アンケート用紙による回答者数も400を超えました。正解率は問題の難易度に若干の差が見られたため1%から76%とさまざまな結果でありました。座長の先生方にはご苦労があったこととお察しいたします。見事1位のパソコンを受賞された方は、倉敷中央病院 玉田祐理(CT)さん、2位の名刺型デジカメを受賞されたのは東北大学 森谷卓也(指導医)先生、さらに1万円の図書カードを3名の方が獲得されました。ちなみに2位の森谷先生は玉田さんの指導医だそうです。

 31日(金)の夜には懇親会が、吉本の夕べと題し開かれました。オール阪神・巨人による漫才が披露されました。絶妙なしゃべくりには浪速芸人のど根性を感じていただけましたでしょうか。さらに河内家菊水丸による河内音頭が太鼓と手拍子で始まり、会場が一体となった合いの手、十分に堪能をされましたでしょうか。

 最後に細胞検査士カードの参加印を押す作業と、教育用CDの販売を総合受付のコーナーで近畿地区の役員の方々にお願いしました。教育用CDは1,000部準備しましたが、あっという間に売り切れました。細胞検査士カードには、写真が貼っていないもの、当日忘れてこられた方、会場で紛失された方などと様々でした。最も印象深かったのは、学会場での講演に夢中になられ、3人のご婦人が、同コーナーに学会初日の夕方5時半過ぎに参加印を求めに来られたことです。すでに担当者が早々と参加印の業務を終了していたため、明日お願いしますと申し上げたのですが、明日は用事で参加できないとのお言葉、丁重にお許しを願い(・・・・)細胞検査士カードを預かりました。後日細胞検査士カードを送付しましたところ、長野県から心温まる郷土の名菓を送っていただきました。人と名菓との邂逅に感激をいたしました。

 

 

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