ラオスにおける青年海外協力隊活動

国立感染症研究所ウイルス第2部第2室
楾 清美写真1  


はじめに

  保健医療分野における国際協力は、プライマリーヘルスケアの実践から、研究所や総合病院・大学などにおける高度医療レベルの技術移転まで多岐におよんでいる。その中でも医療の中核を担う臨床検査分野における技術指導の必要性はますます高まってきており、多くの臨床検査技師が世界各地で活躍している。
青年海外協力隊とは、国際協力機構(JICA)が実施しているODA事業の1つであり、年間約一万名の隊員が発展途上国へと送り出されている。協力隊員は、現地の人々と共に生活し、働き、自らもつ技能・技術を最大限に発揮して草の根レベルの国際協力を実践している。私は1997年4月より2年間、ラオス人民民主共和国、ヴィエンチャン特別市立セタティラート病院検査室で青年海外協力隊員として活動を行った写真2。配属先は、ベッド数200床、1日平均外来者数180人の地域基幹病院で、国内3大主要医療機関の1つである。検査室は、血液・生化学・一般・免疫・細菌の5部門で構成されており、検査技師、医師、看護師、計18名が日常業務としての採血や検査業務に従事していた写真4

細胞診断部新設の試み

    着任後数ヶ月間は、病院全体および検査室の現状把握に徹した。そして、検査室業務を充実・発展させていくために、広島での臨床検査技師としての経験をもとに、現地スタッフと意見交換を重ね、いくつかの問題点を整理した。その結果、改善を実施していくために5つの目標を立てた。

それらは、
1)各検査技師間の検査技術格差の減少
2)検査技術の質の向上および維持
3)検査室と診療部門との連携強化
4)卒後教育の場の設置
5)細胞診断部新設  である。

    そのなかでも、細胞診断部新設は協力隊活動において中心的な活動となった。
派遣された当時、私は、細胞検査士の資格をとって日は浅かったが、その技術を生かした活動をしたいと思っていた。この病院には、オーストラリア留学経験のある産婦人科医が常勤していたので、彼女に当院における細胞診の現状について尋ねてみたところ、子宮頸がんの外科的治療の技術と環境は整っているが、疑いのある患者は国立病院へ紹介して細胞診を実施しているとのことであった。婦人科の外来患者数は1日15〜20人(4050人/年:1997)であり、そのうち細胞診が必要と考えられる対象者は約半数であったが、実際に国立病院に行き細胞診検査を実施しているのは約30%以下(576人/年:1997)にとどまっていた。患者はわざわざ国立病院で細胞診検査を実施し、検査結果を持って再びセタティラート病院を受診しなければならないため、セタティラート病院での早期子宮がん発見が遅れることもあるようであった。そのため、セタティラート病院に受診しても細胞診検査の未実施のため発見が遅れ子宮全摘出に至ってしまう症例や、診断の遅れにより残念ながら患者を死へと導いてしまっているケースも散見された。そこで、細胞診断部の立ち上げを計画することにした。
    セタティラート病院の細胞診断部新設を計画し、JICAへの細胞診を実施するにあたって必要な器材購入などの予算申請を行なった。

具体的に実施した内容は、以下の6点であった。

1)院内で細胞診そのものへの理解がすすんでいなかったため、検査室内スタッフを対象に婦人科医師による細胞診の有用性に関する講義と、検査室および院内での細胞診講習会の実施写真6
2)細胞診に関する抄読会などの勉強会の開催
3)継続的な鏡検実習とトレーニング写真8
4)細胞診断実施に必要な試薬の作成など継続的な細胞診断を実施していくための環境整備とその自主管理活動への助言
5)これらを総括して、ラオス語細胞診テキスト・アトラスの作成した。
6)実施後フォローとして、診断結果のダブルチェック、院内スライドカンファレンス、クラスV以上の症例に関しては国立病院の病理医に再確認を行なってもらうなどして、細胞診断技術の向上に努めた写真910

    途上国においては、医療技術移転後に、その技術が指導者の帰国とともに終わってしまうことも多い。私が帰国したあとも、継続的な活動が行なわれる素地を作るため、他病院との細胞診に関する連携強化や、人的交流も含めたネットワーク体制づくりに努力した。

活動成果と4年ごしの実感

    先日4年ぶりにセタティラート病院を訪問した。帰国当時、このまま細胞診断が継続的に行なわれるかどうか?という不安を抱いていたが、現在では、婦人科細胞診は20件/日にものぼる数が実施されていた。私の協力隊活動から始まったセタティラート病院における細胞診が今なお実施されていたことは、私の2年間の活動成果を帰国4年目にして改めて実感できるものとなった。

協力隊の活動を通して感じたこと

協力隊の任期は通常2年間であるため、限られた時間・予算内での活動を有意義なものにするためには、医学的知識・技術も必要である。それ以上に的確な判断能力・決断力・実行力・臨機応変な対応、精神的な強さ、異文化に対する適応能力などが必要とされる。また、現地病院主体の検査体制を迅速に察しし、それに対応する技術協力を実施する事が重要であった。ラオスでは、いつも、ラオスに貢献できる協力隊活動を自分で実践できるのだろうかと大変不安に思っていた。しかし、多くの人に支えられ、セタティラート病院で細胞検査室を新設し婦人科細胞診を始めることができ、そのことを通じて多くの友人ができたことは、私にとってかけがえのない財産となった写真1112

    私の活動は、現地ラオスのスタッフ、日本の細胞検査士ならびに、検査技師方の協力がなければ実らなかった。ご助言をいただいた関係者の皆様に改めてお礼を申し上げたい。